表参道
延喜式祝詞四
祟神を遷し却る祭(臨時)
高天之原に神留り坐して 事始め給ひし神漏伎・神漏美の命以て 天之高市に八百万神等を神集へに集へ給ひ 神議りに議り給ひて 我が皇御孫之尊は豐葦原能水穂之國を 安國と平けく知食せと 天之磐座放ちて 天之八重雲を伊頭の千別きに千別きて 天降し寄さし奉りし時に 誰の神を先づ遣さば 水穂國の荒振神等を神攘ひに攘ひ平けむと 神議りに議り給ひし時に 諸神等皆量り申さく 天穂日之命を遣はして平けむと申しき
是を以て天降し遣はす時に 此の神は返言申さずて 次に遣はしし健三熊之命も 父の事に随ひて返言申さず 又遣はしし天若彦も返言申さずて 高津鳥の殃に依りて 立處に身亡せにき 是を以て天津神の御言を以て 更に量り給ひて 経津主命・健雷命 二柱の神等を天降し給ひて 荒振神等を神攘ひに攘ひ給ひ 神和しに和し給ひて 語問ひし磐根・樹立・草の片葉をも語止めて 皇御孫之尊を天降し寄さし奉りき
如此天降し寄さし奉りし四方の國中と 大倭日高見之國を安國と定め奉りて 下津磐根に宮柱太敷き立て 高天之原に千木高知りて 天之御蔭・日之御蔭と仕へ奉りて 安國と平けく知食さむ皇御孫之尊の 天御舎の内に坐す皇神等は 荒び給ひ健び給ひ祟り給ふ事尤くして 高天之原に始めし事を神奈我良も知食して 神直日・大直日に直し給ひて 此の地よりは 四方を見霽かす山川の清き地に遷り出で坐して 吾が地と宇須波伎坐せと 進る幣帛は 明妙・照妙・和妙・荒妙に備へ奉りて 見明かす物と鏡 翫ぶ物と玉 射放つ物と弓矢 打斷つ物と太刀 馳せ出づる物と御馬 御酒は甕(の戸高知り 甕の腹満て雙べて 米にも穎にも 山に住む物は毛の和物・毛の荒物 大野原に生ふる物は甘菜・辛菜 青海原に住む物は鰭の廣物・鰭の狭物 奥津海菜・邊津海菜に至るまでに 横山の如く八つの物に置き足らはして 奉る宇豆の幣帛を 皇神等の御心も明らかに 安幣帛の足幣帛と平けく聞食して 祟り給ひ健び給ふ事尤くして 山川の廣く清き地に遷り出で坐して 神奈我良鎮り坐せと 稱辭竟へ奉らくと申す
唐に使を遣はす時幣を奉る(臨時)
皇御孫尊の御命を以て 住吉に稱辭竟へ奉る皇神等の前に申し賜はく
大唐に使遣はさむと為るに 船居尤きに依りて 播磨國より船に乗ると為て 使は遣はさむと所念行す間に皇神の命以て 船居は吾作らむと教へ悟し給ひき 教へ悟し給ひ那我良 船居作り給へれば 悦び嘉しみ 禮代の幣帛を官位姓名に捧げ持たしめて 進奉らくと申す
出雲國造神賀詞(臨時)
〔出雲の國造は穂日命の後なり〕
八十日日は在れども 今日の生日の足日に 出雲國の國造姓名 恐み恐みも申し賜はく
掛けまくも畏き明御神と大八嶋國知食す天皇命の手長の大御世と齋ふと〔若し後の齋の時には後の字を加へよ〕して 出雲國の青垣山の内に 下津石根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知り坐す伊射那伎の日真名子、加夫呂伎熊野大神櫛御氣野命 國作り坐しし大穴持命 二柱の神を始めて 百八十六社に坐す皇神等を 某甲が弱肩に太襷取挂けて 伊都幣の緒結び 天乃美賀祕冠りて 伊豆の真屋に麁草を伊豆の席と苅り敷きて 伊都閉黒益し 天乃甕和に齋みこもりて 志都宮に忌み静め仕へ奉りて 朝日の豐榮登に 伊波比の返事の神賀吉詞 奏し賜はくと奏す
高天の神王 高御魂・神魂命の 皇御孫命に天下大八嶋國を事避り奉りし時 出雲臣等が遠神天穂比命を 國體見に遣はしし時に 天の八重雲を押別けて 天翔り國翔りて 天下を見廻りて返事申し給はく
豐葦原乃水穂國は 晝は五月蠅如す水沸き 夜は火瓦如す光る神在り 石根木の立青水沫も事問ひて荒ぶる國なり 然れども鎮め平けて 皇御孫命に安國と平けく知し坐さしめむと申して 己命の児天夷鳥命に布都怒志命を副へて 天降し遣はして 荒ぶる神等を撥ひ平け 國作らしし大神をも媚び鎮めて 大八嶋國の現事顕事事避らしめき
乃ち大穴持命の申し給はく 皇御孫命の静まり坐さむ大倭國と申して 己命の和魂を八咫鏡に取り託けて 倭大物主櫛甕玉命と名を稱へて 大御和の神奈備に坐せ 己命の御子阿遅須伎高孫根命の御魂を葛木の鴨の神奈備に坐せ 事代主命の御魂を宇奈提に坐せ 賀夜奈流美命の御魂を飛鳥の神奈備に坐せて 皇御孫命の近き守神と貢り置きて 八百丹杵築宮に静まり坐しき
是に親神魯伎・神魯美命の宣りたまはく 汝天穂比命は 天皇命の手長の大御世を 堅磐に常磐に伊波比奉り 伊賀志の御世に佐伎波閉奉れと仰せ賜ひし次の随に 供齋〔若し後の齋の時には後の字を加へよ〕仕へ奉りて 朝日の豐榮登に 神の禮白臣の禮白と 御祷の神宝献らくと奏す
白玉の大御白髪坐し 赤玉の御阿加良毘坐し 青玉の水江の玉の行相に 明御神と大八嶋國知食す天皇命の手長の大御世を 御横刀の廣らに誅堅め 白御馬の前足の爪 後足の爪 踏み立つる事は 大宮の内外の御門の柱を 上津石根に踏み堅め 下津石根に踏み凝らし立て 振り立つる事は 耳の彌高に天下を知食さむ事の志の為 白鵠の生御調の玩物と 倭文の大御心も足に 彼方の石川の度 此方の石川の度に生ひ立てる若水沼間の彌若叡に御若叡坐し 須須伎振る遠止美の水の 彌乎知に御袁知坐し 麻蘇比の大御鏡の面を 意志波留加して見行す事のごとく 明御神の大八嶋國を天地日月と共に 安けく平けく知行さむ事の志の太米と 御祝の神宝をフげ持ちて 神の禮白臣の禮白と 恐み恐みも 天津次の神賀吉詞白し賜はくと奏す
付
中臣寿詞
現御神と大八嶋國所知食す大倭根子天皇が御前に 天神乃寿詞を稱辭竟へ奉らくと申す
高天原に神留り坐す皇親神漏岐神漏美の命を持ちて 八百万の神等を集へ賜ひて 皇孫尊は 高天原に事始めて 豐葦原の瑞穂の國を安國と平けく所知食して 天都日嗣の天都高御座に御坐して 天都御膳の長御膳の遠御膳と 千秋の五百秋に 瑞穂を平けく安けく 由庭に所知食せと 事依さし奉りて 天降し坐しし後に 中臣の遠つ祖天児屋根命 皇御孫尊の御前に 仕へ奉りて 天忍雲根神を天の二上に上せ奉りて 神漏岐神漏美命の前に 受け給はり申すに 皇御孫尊の御膳都水は 宇都志國の水を 天都水と成して立奉らむと申せと 事教へ給ひしに依りて 天忍雲根神 天の浮雲に乗りて 天の二上に上り坐して 神漏岐神漏美命の前に申せば 天の玉櫛を事依さし奉りて 此の玉櫛を刺立て 夕日より朝日照るに至るまで 天都詔戸の太諸刀言を以て告れ
如此告らば 麻知ば弱蒜に由都五百篁生ひ出でむ 其の下より天の八井出でむ 此を持ちて 天都水と所聞食せと 事依さし奉りき
如此依さし奉りし任任に 所聞食す由庭の瑞穂を 四國の卜部等 太兆の卜事を持ちて仕へ奉りて 悠紀に近江國の野洲郡 主基に丹波國の氷上郡を齋ひ定めて 物部の人等 酒造児・酒波・粉走・灰焼・薪採・相作・稲実公等 大嘗會の齋庭に持ち齋まはり参来て 今年の十一月の中つ卯日に 由志理伊都志理 持ち恐み恐みも清麻波利に仕へ奉り 月の内に日時を撰び定めて献る悠紀主基の黒木白木の大御酒を 大倭根子天皇が 天都御膳の長御膳の遠御膳と 汁にも実にも 赤丹の穂にも 所聞食して 豐の明りに明り御坐して 天社・國社と稱辭竟へ奉る皇神等も 千秋五百秋の相嘗に 相宇豆乃比奉り 堅磐常磐に齋ひ奉りて 伊賀志御世に榮えしめ奉り 康治元年より始めて 天地月日と共に 照し明らし御坐さむ事に 本末傾けず茂槍の中執持ちて仕へ奉る中臣の祭主正四位上行神祇大副大中臣朝臣清親 寿詞を稱辭竟へ奉らくと申す
又申さく 天皇が朝廷に仕へ奉る親王等・王等・諸臣・百官人等・天の下四方の國の百姓諸諸集はり侍りて 見食へ 尊み食へ 歓び食へ 聞き食へ 天皇が朝廷に 茂志世に 八桑枝の立榮え仕へ奉るべき祷事を 所聞食せと 恐み恐みも申し給はくと申す
延喜式祝詞 終
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