表参道
延喜式祝詞弐
大殿祭六月十二日・十二月十二日
高天原に神留まり坐す皇親神魯企・神魯美の命以て 皇御孫之命を天津高御座に坐せて 天津璽の剣・鏡を捧げ持ち賜ひて 言寿ぎ〔古語にコトホギと云ふ。寿詞と言ふは今の寿觴の詞の如し〕宣たまひしく
皇我が宇都の御子皇御孫之命 此の天津高御座に坐して 天津日嗣を万千秋の長秋に 大八洲豐葦原瑞穂之國を安國と平けく知食せと 言寄さし奉り賜ひて 天津御量以て 事問ひし磐根・木の立ち・草の可岐葉をも言止めて 天降り賜ひし食國天の下と 天津日嗣知食す皇御孫之命の御殿を 今奥山の大峡小峡に立てる木を 齋部の齋斧を以て伐り採りて 本末をば山の神に祭りて 中の間を持ち出で来て 齋鋤を以て齋柱立てて 皇御孫之命の天之御翳・日之御翳と 造り仕へ奉れる瑞之御殿 汝屋船命に 天津奇護言を以て 言寿ぎ鎮め白さく 此の敷き坐す大宮地の底津磐根の極み 下津綱根 波府虫の禍尤く 高天原は 青雲の靄く極み 天の血垂飛ぶ鳥の禍尤く 掘り堅めたる柱・桁・梁・戸・窓の錯ひ動き鳴る事尤く 引結べる葛目の緩び 取葺ける草の噪ぎ尤く 御床都比の佐夜伎 夜女の伊須須伎 伊豆都志伎事尤く 平けく安けく護り奉る神の御名を白さく 屋船久久遅命・屋船豐宇気姫命と 御名をば稱へ奉りて 皇御孫命の御世を堅磐に常磐に護り奉り 五十橿御世の足らし御世に 田永の御世と福へ奉るに依りて 齋玉作等が 持齋まはり 持浄まはり 造り仕へまつれる瑞八尺瓊の御吹きの五百都御統の玉に 明和幣・曜和幣を附けて 齋部宿禰某が弱肩に 太襁取懸けて 言寿ぎ鎮め奉る事の漏れ落ちむ事をば 神直日命・大直日命 聞き直し見直して 平けく安けく知食せと白す
詞別きて白さく 大宮売命と御名を申す事は 皇御孫命の同じ殿の裏に塞り坐して 参入り罷出る人の選び知ろし神等の伊須呂許比阿礼比坐すを 言直し和し坐して 皇御孫命の朝の御膳・夕の御膳に仕へ奉る比礼懸くる伴緒・襁懸くる伴緒を、手の躓・足の躓為さしめずて 親王・諸王・諸臣・百官人等を 己が乖乖在らしめず 邪しき意・穢き心尤く 宮進めに進め 宮勤めに勤めしめて 咎過在らむをば 見直し聞き直し坐して 平けく安けく仕へ奉らしめ坐すに依りて 大宮売命と御名を 稱辭竟へ奉らくと白す
御門祭六月十二日・十二月十二日
櫛磐窓命・豐磐窓命と御名を申す事は 四方の
内外の御門に 湯津磐村の如く塞り坐して 四方四角より疎び荒び来む天能麻我都比と云ふ神の言はむ悪事に 相麻自許利 相口会へ賜ふ事尤く 上より往かば上を護り 下より往かば下を護り 待ち防ぎ掃ひ却り 言ひ排け坐して 朝には門を開き 夕には門を閉てて 参入り罷出る人の名を問ひ知しめし 咎過在らむをば 神直備・大直備に見直し聞き直し坐して 平けく安けく仕へ奉らしめ賜ふが故に、豐磐窓命・櫛磐窓命と 御名を稱辭竟へ奉らくと白す
六月晦大祓〔十二月も此に准へ〕
六月晦日・十二月晦日
集はり侍べる親王・諸王・諸臣・百官人等諸聞き食へよと宣ふ
天皇が朝廷に仕へ奉る比礼挂くる伴男・手襁挂くる伴男・靫負ふ伴男・剣佩く伴男・伴男の八十伴男を始めて 官官に仕へ奉る人等の 過ち犯しけむ雑雑の罪を 今年の六月の晦の大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を 諸聞き食へよと宣ふ
高天原に神留り坐す皇親神漏岐・神漏美の命以て八百万の神等を神集へに集へ賜ひ 神議りに議り賜ひて 我が皇御孫之命は 豐葦原乃水穂之國を 安國と平けく知食せと事依さし奉りき
如此依さし奉りし國中に 荒振神等をば 神問はしに問はし賜ひ 神掃ひに掃ひ賜ひて 語問ひし磐根・樹の立・草の垣葉をも語止めて 天之磐座放ち 天之八重雲を伊頭の千別きに千別きて 天降し依さし奉りき
如此依さし奉りし四方の國中と 大倭日高見之國を安國と定め奉りて 下津磐根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知りて 皇御孫之命の美頭の御舎仕へ奉りて 天之御蔭・日之御蔭と隠り坐して 安國と平けく知食さむ國中に 成り出でむ天之益人等が 過ち犯しけむ雑雑の罪事は 天津罪と 畔放・溝埋・樋放・頻蒔・串刺・生剥・逆剥・屎戸 許許太久の罪を天津罪と法り別けて 國津罪とは 生膚斷・死膚斷・白人・胡久美・己が母犯せる罪・己が子犯せる罪・母と子と犯せる罪・子と母と犯せる罪・畜犯せる罪・昆虫の災・高津神の災・高津鳥の災・畜倒し 蠱物為る罪 許許太久の罪出でむ
如此出でば 天津宮事以て 大中臣 天津金木を本打切り末打斷ちて 千座の置座に置き足らはして 天津菅曾を本刈り斷ち末刈り切りて 八針に取辟きて 天津祝詞の太祝詞事を宣れ
如此のらば 天津神は天磐門を押し披きて 天之八重雲を伊頭の千別きに千別きて聞食さむ 國津神は高山の末 短山の末に上り坐して 高山の伊惠理 短山の伊惠理を撥き別けて聞食さむ
如此聞食してば 皇御孫之命の朝廷を始めて 天下四方國には 罪と云ふ罪は在らじと 科戸之風の天之八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧・夕の御霧を 朝風夕風の吹き掃ふ事の如く 大津邊に居る大船を 舳解き放ち艫解き放ちて 大海原に押し放つ事の如く 彼方の繁木が本を 焼鎌の敏鎌以て 打掃ふ事の如く 遺る罪は在らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 高山の末 短山の末より 佐久那太理に落ちたぎつ速川の瀬に坐す瀬織津比と云ふ神 大海原に持ち出でなむ
如此持ち出で往なば 荒鹽の鹽の八百道の八鹽道の鹽の八百曾に坐す速開都比と云ふ神 持ち可可呑みてむ
如此可可呑みてば 気吹戸に坐す気吹戸主と云ふ神 根國底之國に気吹き放ちてむ
如此気吹き放ちてば 根國底之國に坐す速佐須良比と云ふ神 持ち佐須良比失ひてむ
如此失ひてば 天皇が朝廷に仕へ奉る官官の人等を始めて 天下四方には 今日より始めて罪と云ふ罪は在らじと 高天原に耳振り立てて聞く物と 馬牽き立てて 今年の六月の晦日の夕日の降の大祓に 祓ひ給ひ清め給ふ事を諸聞き食へよと宣ふ
四國の卜部等 大川道に持ち退り出でて祓へ却れと宣ふ
東文忌寸部 献横刀時の呪〔西文部は此に准へ〕
六月晦日・十二月晦日
謹みて請ふ
皇天上帝 三極大君 日月星辰 八方諸神 司命司籍 左は東王父 右は西王母 五方五帝 四時四氣 捧ぐるに祿人を以てし 禍災を除かむことを請ふ
捧ぐるに金刀を以てし 帝祚を延べむことを請ふ
呪に曰はく 東は扶桑に至り 西は虞淵に至り 南は炎光に至り 北は弱水に至れり 千城百國 精治万歳 万歳 万歳
鎮火祭六月吉日・十二月吉日
高天原に神留り坐す皇親神漏義・神漏美の命持ちて 皇御孫命は豐葦原乃水穂國を安國と平けく知食せと 天下し寄さし奉りし時に 事寄さし奉りし天都詞太詞事を以て申さく
神伊佐奈伎・伊佐奈美乃命 妹F二柱嫁繼ぎ給ひて 國の八十國・嶋の八十嶋を生み給ひ 八百万神等を生み給ひて 麻奈弟子に火結神を生み給ひて 美保止焼かえて石隠り坐して 夜七日・晝七日 吾をな見給ひそ 吾が奈F乃命と申し給ひき 此の七日には足らずて 隠り坐す事奇しとて 見そなはす時に 火を生み給ひて 御保止を焼かえ坐しき 如是る時に 吾が名F乃命の吾を見給ふなと申すを 吾を見阿波多志給ひつと申し給ひて 吾が名F乃命は上津國を知食すべし 吾は下津國を知らさむと白して 石隠り給ひて 与美津枚坂に至り坐して思ほし食さく 吾が名F乃命の知食す上津国に 心悪しき子を生み置きて来ぬと宣ひて 返り坐して 更に子を生みたまふ 水神・匏・川菜・埴山姫 四種の物を生み給ひて 此の心悪しき子の心荒びるは水・匏・埴山姫・川菜を持ちて鎮め奉れと事教へ悟し給ひき
此に依りて稱辭竟へ奉らば 皇御孫の朝廷に御心一速び給はじと為て 進る物は 明妙・照妙・和妙・荒妙・五色物を備へ奉りて 青海原に住む物は 鰭廣物・鰭狭物 奥津海菜・邊津海菜に至るまでに 御酒は甕の辺高知り 甕の腹満て雙べて 和稲・荒稲に至るまでに 横山の如く置き高成して 天津祝詞の太祝詞事を以て 稱辭竟へ奉らくと申す
道饗祭六月吉日・十二月吉日
高天之原に事始めて 皇御孫之命と稱辭竟へ奉る 大八衢に湯津磐村の如く塞り坐す皇神等の前に申さく
八衢比古・八衢比売・久那斗と御名をば申して辭竟へ奉らくは 根國底國より麁び疎び来らむ物に 相率ひ相口會ふる事尤くて 下より行かば下を守り 上より往かば上を守り 夜の守・日の守に守り奉り齋ひ奉れと 進る幣帛は 明妙・照妙・和妙・荒妙に備へ奉り 御酒は甕の辺高知り 甕の腹満て雙べて 汁にも穎にも 山野に住む物は 毛の和物・毛の荒物 青海原に住む物は 鰭の廣物・鰭の狭物 奥津海菜・邊津海菜に至るまでに 横山の如く置き足らはして進る宇豆の幣帛を 平けく聞食して 大八衢に湯津磐村の如く塞り坐して 皇御孫命を堅磐に常磐に齋ひ奉り 茂御世に幸へ奉り給へと申す
又親王・王等・臣等・百官人等 天下の公民に至るまでに 平けく齋ひ給へと 神官 天津祝詞の太祝詞事を以て 稱辭竟へ奉らくと申す
大嘗祭十一月中卯日
集はり侍る神主・祝部等諸聞き食へよと宣ふ
高天原に神留り坐す皇睦神漏伎・神漏彌の命を以て 天社國社と敷き坐せる皇神等の前に白さく 今年の十一月の中卯日に 天都御食の長御食の遠御食と 皇御孫命の大嘗聞食さむ為の故に 皇神等 相宇豆乃比奉りて 堅磐に常磐に齋ひ奉り 茂御世に幸へ奉らむと依さして 千秋五百秋に平けく安けく聞食して 豐の明りに明り坐さむ皇御孫命の宇豆の幣帛を 明妙・照妙・和妙・荒妙に備へ奉りて 朝日の豐榮登に稱辭竟へ奉らくを諸聞き食へよと宣ふ
事別きて 忌部の弱肩に太襁取挂けて 持由麻波利仕へ奉れる幣帛を 神主・祝部等 請けたまはりて 事落ちず捧げ持ちて奉れと宣ふ
御魂を齋戸に鎭むる祭十二月吉日
〔中宮・春宮の齋戸祭も亦同じくせよ〕
高天之原に神留り坐す皇親神漏伎・神漏美の命を以て 皇御孫之命は豐葦原能水穂國を安國と定め奉りて 下津磐根に宮柱太敷き立て 高天之原に千木高知りて 天之御蔭・日之御蔭と稱辭竟へ奉りて 奉る御衣は上下備へ奉りて 宇豆の幣帛は明妙・照妙・和妙・荒妙・五色物 御酒は甕の邊高知り 甕の腹満て雙べて 山野の物は甘菜・辛菜 青海原の物は鰭の廣物・鰭の狭物 奥津海菜・邊津海菜に至るまでに 雑物を横山の如く置き高成して献る宇豆の幣帛を 安幣帛の足幣帛と平けく聞食して皇が朝廷を 常磐に堅磐に齋ひ奉り 茂御世に幸へ奉り給ひて 此の十二月より始めて 来る十二月に至るまでに 平けく御坐所に御坐さしめ給へと 今年の十二月の某の日に 齋ひ鎭め奉らくと申す
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